デジタル遺産とは、個人がデジタル形式で保有している財産や情報を指します。故人が生前に保有していたデジタル情報の資産(デジタル資産)全般を指すことも多いです。デジタル遺品とも呼ばれます。
具体的には、オンラインバンキングの口座、仮想通貨、電子マネー、各種ポイント、SNSアカウント、電子書籍、写真、動画、メールなど、多岐にわたります。これらは物理的な形を持たず、デジタルデータとして存在するため、相続や管理において特有の課題を抱えています。
デジタル遺産の種類
デジタル遺産にはどのような種類があるか代表的なものを確認しておきましょう。
- 金融関連のデジタル資産: ネット銀行の口座、ネット証券の口座、仮想通貨(暗号資産)、FX口座などが該当します。これらは直接的な金銭的価値を持つため、相続時に特に注意が必要です。
- ポイントやマイレージ: 各種ポイントサービスや航空会社のマイレージなど、商品やサービスと交換可能なものもデジタル遺産に含まれます。ただし、サービスによっては相続が認められない場合もあります。
- サブスクリプションサービス: 音楽や動画の定期購読サービス、オンラインサロンなどの月額費用が発生するサービスも含まれます。これらは放置すると費用がかさむ可能性があります。
- デジタルコンテンツ: 写真、動画、音楽データ、作成した文章や投稿、個人ブログのデータなど、デジタル形式で保存されたコンテンツも該当します。これらは金銭的価値だけでなく、思い出としての価値も持っています。
近年では個人がこのようなデジタル資産を多数保有しているのが一般的です。それだけに本人が亡くなった場合の資産の扱い方法が課題となっています。
亡くなった方が遺したデジタル資産の課題
デジタル遺産は、その特性上、相続や管理において以下のような課題があります。
1. 発見の難しさ
デジタル遺産は物理的な形がないため、相続人がその存在に気づかないことが多いです。
特に、故人が利用していたサービスやアカウント情報を生前に共有していない場合、発見は困難を極めます。
2. アクセスの困難さ
仮にデジタル遺産の存在を把握しても、ログインIDやパスワード、二段階認証などのセキュリティが設定されている場合、相続人がアクセスするのは容易ではありません。
特に、故人のスマートフォンやパソコンにロックがかかっていると、さらに困難になります。
3. 相続手続きの煩雑さ
デジタル遺産は多岐にわたるため、各サービスごとに異なる手続きが必要となります。
また、オンライン上での手続きが主となるため、ITに不慣れな相続人にとっては大きな負担となります。さらに、サービス提供者が海外企業の場合、手続きが複雑化することもあります。
4. 放置によるリスク
デジタル遺産を放置すると、以下のようなリスクが生じます。
- 定期課金の継続: サブスクリプションサービスなどの定期課金が続き、不要な費用が発生する可能性があります。
- 資産価値の変動: 仮想通貨や株式などは価値の変動が激しく、放置することで資産価値が大きく変動するリスクがあります。
- 法的トラブル: 適切な手続きを行わないことで、法的な問題や相続人間のトラブルに発展する可能性があります。
デジタル遺産の相続に関する注意点
デジタル遺産の相続には、以下の点に注意が必要です。
1. 相続手続きの未整備
一部のデジタル遺産については、相続手続きが確立されていない場合があります。例えば、海外のサービスや暗号資産の一部では、相続手続きが明確でないことがあります。
また、サービスの利用規約によっては、ポイントやマイレージの相続が認められていないケースもあります。
2. 相続税の申告漏れリスク
デジタル遺産も相続財産として評価され、相続税の対象となります。
しかし、その存在を把握していないと、申告漏れとなり、後に追加課税や罰金の対象となるリスクがあります。特に、仮想通貨などの評価が難しい資産については注意が必要です。
デジタル遺産の管理方法
デジタル遺産を適切に管理することは、相続時の混乱やトラブルを防ぐために非常に重要です。その重要性を理解したところで以下に、効果的な管理方法をいくつかご紹介します。
1. リストの作成
自身が利用しているすべてのデジタルサービスやアカウントの一覧を作成し、ログイン情報やパスワード、利用状況を明記しておくことが重要です。これにより、万が一の際に相続人がスムーズに対応できます。エンディングノートなどに記載しておくと良いでしょう。
エンンディングノートとは?遺書との違い
エンディングノートとは、人生の終末期や万が一の事態に備えて、自身の情報や希望を記録しておくノートのことです。具体的には、以下の内容を記載します。
- 個人情報: 氏名、生年月日、住所、本籍地、血液型など。
- 家族や友人へのメッセージ: 感謝の気持ちや伝えたいこと。
- 財産や資産の情報: 預貯金、不動産、保険、借入金などの詳細。
- 医療や介護に関する希望: 延命治療の可否、介護の方針、かかりつけの病院や持病の情報。
- 葬儀やお墓に関する希望: 葬儀の形式、遺影写真、棺に入れてほしいもの、墓地の場所など。
- デジタル情報: パソコンやスマートフォンのログインID、メールアドレス、SNSのアカウント情報など。
エンディングノートは遺言書とは異なり、法的な効力はありませんが、家族や関係者が本人の意思を尊重し、スムーズに対応できるよう手助けする役割を持っています。また、自分の人生を振り返り、これからの生き方を考えるきっかけにもなります。
エンディングノートの作成に特別な決まりはなく、市販のものや自作のノート、デジタル形式のものなど、自由に選ぶことができます。定期的に内容を見直し、最新の情報に更新しておくことが大切です。
エンディングノートを作成することで、家族の負担を軽減し、自分の希望を確実に伝えることができます。
2. 家族への共有
信頼できる家族や友人に、デジタル遺産に関する情報を共有しておくことで、突然の事態にも対応しやすくなります。ただし、セキュリティの観点から、情報の取り扱いには十分な注意が必要です。
3. 専門家への相談
弁護士や税理士などの専門家に相談し、デジタル遺産の管理や相続に関するアドバイスを受けることも有効です。特に、遺言書の作成や相続税の申告に関しては、専門的な知識が求められます。
4. デジタル遺産管理サービスの利用
近年、デジタル遺産を一元管理するサービスが登場しています。これらを活用することで、複数のアカウントや資産を効率的に管理でき、相続時の手続きも円滑に進められます。
5. 定期的な更新
デジタル遺産の状況は日々変化するため、定期的にリストや情報を更新し、最新の状態を保つことが重要です。これにより、相続人が正確な情報を基に手続きを進められます。
まとめ
デジタル遺産は、現代社会において無視できない重要な財産となっています。
その特性上、物理的な遺産とは異なる課題やリスクが存在しますが、適切な管理と生前整理を行うことで、相続時のトラブルを未然に防ぐことが可能です。
自身のデジタル遺産を把握し、リスト化や家族への共有、専門家への相談などを通じて、万全の準備を整えておくことをおすすめします。